People × Formulas

心理学・経済学・経営学の知見を、8つの原則に束ねる 組織は、式で読める。

人の集まりを動かすコツは、勘と経験だけの話なのか。
別々の分野が、別々の方法でたどり着いた答えを並べると、 同じ場所に集まってくる。そのいくつかは、式で書ける。

2026年10月 読了 約15分 チームを率いる人・関わる人向け

全員がやる気を持って、
高い成果を出し続けるチーム。
それは、実際にはまず起きない。

チームのリードや後輩の育成を担当していると、この当たり前の事実に何度もぶつかる。では、どこに手を打てばいいのか。自分の少ない経験だけで答えを出すのは心もとないので、人類が積み重ねてきた知見を分野を問わず集めて、並べ直してみた。

この記事が答える問い

人の集まりを動かすために、
自分にできることは何か?

まず数字を一つ置く。Gallupの調査では、日本の会社員のうち仕事に熱意を持っている人は8%。71%は「熱はないが、離れてもいない」、21%は不満を抱えている。世界平均の20%と比べても、熱意のある人はかなり少ない。

そして同じGallupは、チームごとの熱意の差の少なくとも70%は、マネージャーで説明できるとしている。人の集まりの状態は、率いる人の振る舞いでかなりの部分が決まる、ということだ。

結論を先に置く。心理学・経済学・経営学・統計・工学・東洋の古典は、別々の道から同じ8つの原則にたどり着いている。そのうち5つは、式やモデルの形で書ける。式は、どこに手を打てばいいかを示す地図になる。

Chapter 01

人を責める前に、
場を見る

ざっくり言うと——「やる気がない」「できない」と見えるとき、原因の多くは人ではなく、置かれた環境と仕組みにある。

B = f(P, E)

行動(Behavior)は、人(Person)と環境(Environment)の関数

社会心理学の出発点になったクルト・レヴィンの式(1936年)。人の行動は、その人の性質だけでなく、置かれた環境との組み合わせで決まる。当たり前に聞こえるが、人を見る側はこれをよく忘れる。

心理学には基本的な帰属の誤りという言葉がある。人は他人の失敗を性格のせいにし、自分の失敗は状況のせいにしやすい。観察する側に、構造的な偏りがあるということだ。

品質管理の父と呼ばれるデミングは、問題と改善の機会の大半(本人の見積もりでは94%)は仕組み、つまり経営の側に属し、個人に帰せるのは一部だと書いた。厳密な統計ではなく経験からの見積もりだが、トヨタ生産方式の「異常があればラインを止め、原因を工程に探す」と同じ方向を向いている。

少し意外な裏付けもある。長谷川英祐らの研究(2016年)では、普段働かないアリがいる集団のほうが、長く存続した。働くアリが疲れたとき、休んでいたアリが代わりに働くので、仕事が途切れない。全員が常に全力の集団は、全員が同時に疲れて止まってしまう。

この原則を一言で

「誰が悪いか」より先に、「何がそうさせたか」を聞く。

Chapter 02

意欲は、
掛け算でできている

ざっくり言うと——人は多くの場合、意欲を持って入ってくる。外から足す工夫より、内側の意欲を削っているものを取り除くほうが効く。

M = E × I × V

やる気 = できそうか × 報われそうか × その報酬が欲しいか

ヴルームの期待理論(1964年)。ポイントは足し算ではなく掛け算であることだ。どれか一つが0になれば、ほかがどれだけ大きくても全体は0になる。「やる気がない」状態は、3つのうちどれかが0になった状態として読める。だから手を打つ前に、どれが0なのかを聞き分ける必要がある。

しかも意欲は、時間とともに下がりやすい。Gallupの米国の調査では、熱意のある人の割合は入社6か月以内が最も高く(52%)、その後大きく下がる。転職した人を追った研究でも、満足度は転職の直後に上がり、そのあと下がっていく(ハネムーン・ハングオーバー効果)。0から1になる人より、1から0になる人のほうがずっと多い。

不満を消すものと、やる気を生むものは別

不満がある 不満がない 衛生要因 給与・制度・人間関係・作業環境 やる気がない やる気がある 動機づけ要因 達成・承認・仕事そのもの・成長
図1 ハーズバーグの二要因理論(1968年の論文で広く知られる)。衛生要因を満たしても「不満がない」止まり。やる気は別の物差しで生まれる。

内側から湧く意欲については、デシとライアンの自己決定理論がよく使われる。「自分で決められる(自律)」「できるようになっている(有能感)」「人とつながっている(関係性)」の3つが満たされると、意欲は保たれる。開発者約2.5万人が答えたStack Overflowの2025年の調査でも、仕事の満足を左右する要因の1位は「自分の仕事を自分で進められる自律と信頼」だった。2位は報酬で、「上司が好き」は9位だった。

外から動機を足そうとすると、逆効果になることもある。イスラエルの保育園10か所で、お迎えの遅刻に罰金を導入したところ、遅刻はかえって増え、罰金をやめても元に戻らなかった(Gneezy & Rustichini, 2000)。「先生に申し訳ない」が「お金を払えば済むサービス」に変わったため、と著者は説明している。ルールや報酬は、人が「なぜそうするか」そのものを書き換えてしまうことがある。

自分の報酬 ÷ 自分の投入⇔他人の報酬 ÷ 他人の投入

アダムズの公平理論(1963年)。人は報酬の額そのものより、投入に対する比を周りと比べる

比が崩れたと感じると、人は投入(努力)を減らして釣り合わせようとする。理由の説明がない差は、それだけで不公平に見える。

仕事の要求 量・時間の圧力・割り込み 仕事の資源 裁量・支援・フィードバック 消耗の道 意欲の道 資源が要求の害を和らげる 燃え尽き 健康を損なう・辞める 熱意 成果・定着
図2 仕事の要求と資源モデル(JD-R、Bakker & Demerouti)。仕事の量を減らせない時期でも、裁量や支援といった資源は足せる。

燃え尽きの研究で知られるマスラックらは、燃え尽きの要因として仕事量の過多・裁量のなさ・報われなさ・つながりの喪失・不公平感・価値観の衝突の6つを挙げた(2001年)。燃え尽きは個人の弱さではなく、人と職場のずれから起きる。ここでも、第1章の B = f(P, E) が顔を出す。

この原則を一言で

やる気を上げる施策より先に、やる気を削っているものを一つ取り除く。

Chapter 03

言える場が、
先にある

ざっくり言うと——チームの成果を最もよく説明するのは、誰がいるかより、悪い知らせや質問を口にできるかどうか。

Googleは社内の180チームを調べ(Project Aristotle)、成果を出すチームの条件を重要な順に5つ挙げた。心理的安全性・相互の信頼・構造と明確さ・仕事の意味・仕事の影響。一方で、同じ場所で働いているか、メンバーの外向性、個人の成績、在籍年数、チームの人数は、Googleの分析では成果と有意な関係が見られなかった。

心理的安全性は、エドモンドソン(1999年)が定義した概念で、質問や反対意見やミスの報告をしても罰せられない、とチームで共有されている信念のことだ。話のうまい人を集めることより、聞いて確かめる場をつくることのほうが効く。

社会学者ウェストラムは、航空や医療の事故研究から、情報の流れ方で組織を3つに分けた。開発組織の成果を調べるDORAも、この分類を成果を予測する要素として使っている。

病的な組織 官僚的な組織 生成的な組織
向いている先権力規則成果
悪い知らせを運ぶ人罰せられる無視される育てられる
責任押し付け合う狭く区切るリスクを分かち合う
協力低いそこそこ高い

表1 ウェストラムの組織文化の3類型(抜粋)

2500年前の『論語』にも、近いことが書いてある。「君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず」。調和することと、意見を合わせることは別。違う意見を言える関係のほうが、本当の和に近い。

この原則を一言で

悪い知らせが一番早く届くチームをつくる。

Chapter 04

流れを詰まらせない、
数字に支配されない

ざっくり言うと——チームの速さは、個人の頑張りの合計では決まらない。そして、測った数字を目標にした瞬間に、数字は現実を映さなくなる。

L = λW

抱えている仕事の量 = 流れる速さ × 一つが終わるまでの時間

待ち行列の基本法則、リトルの法則(1961年)。流れる速さが同じなら、同時に抱える仕事を減らすほど、一つが終わるまでの時間は短くなる。「もっと頑張る」より「並行で抱える数を減らす」ほうが、早く届くということだ。

同じ構造の話は、ほかにもある。全体の速さは一番細い工程で決まるという制約理論(ゴールドラット)。一部の工程だけを速くしても全体の速さには上限があるというアムダールの法則。遅れたソフトウェア開発に人を足すと、さらに遅れるというブルックスの法則。綱引きの人数が増えるほど一人あたりの力が下がる社会的手抜き。このあたりは、AIエージェントを増やしたときの組織の話として「AIは増やせる。組織は増やせない。」で詳しく書いたので、ここでは数字を一つだけ置く。

作業全体の3割を占める工程だけを速くしたとき、全体は何倍になるか その工程を2倍 その工程を4倍 その工程を一瞬に 全体 1.18倍 全体 1.29倍 全体 1.43倍(上限) 1.0倍 1.5倍
図3 アムダールの法則 S = 1 / ((1 − p) + p / s) で、p = 0.3 として計算。棒の長さは倍率に比例。実装が全体の3割なら、AIで実装を限りなく速くしても全体は1.43倍が上限になる。

どこが細いかを知るには、測る必要がある。ただし測った数字には罠がある。グッドハートの法則は「指標が目標になると、良い指標ではなくなる」と言い、キャンベルの法則は「量的な指標が意思決定に使われるほど、その指標は歪められる」と言う。開発組織の指標として広く使われるDORAの指標も、DORA自身が「目標にしない」「チーム同士で比べない」「一つだけ見ない」と注意している。

数字の返し方にも注意がいる。607の効果量を集めたメタ分析(Kluger & DeNisi, 1996)では、フィードバックは平均では成果を上げたが、3分の1を超える例では、かえって成果を下げていた。注意が「仕事」から「自分自身の評価」に移るほど、効果が落ちる。測り方と品質の関係は「質とスピード」のトレードオフは存在しないでも扱った。

この原則を一言で

「どこで待っているか」を数字で探す。数字は会話の材料にして、目標にはしない。

Chapter 05

意図を渡し、
言葉にする

ざっくり言うと——「どうやるか」を指示するより、「何のために」を渡すほうが、人は速く遠くまで動ける。そのために、頭の中の知識を言葉にして渡す。

19世紀のプロイセン軍に始まる任務戦術は、上官が目的と意図を伝え、達成の方法は現場の判断に任せるやり方だ。状況が変わっても、意図が分かっていれば現場で正しく動ける。仕事の依頼に置き換えるなら、「目的・制約・判断の基準」を渡し、やり方は任せる、ということになる。

では、意図をどう言葉にするか。野中郁次郎と竹内弘高は、日本企業の研究から、組織の知識が増える仕組みを4つの変換で説明した。

共同化 暗黙知 → 暗黙知 一緒に作業して伝わる 表出化 暗黙知 → 形式知 言葉や図にする 連結化 形式知 → 形式知 文書をつなぎ体系にする 内面化 形式知 → 暗黙知 使って身につける 左上から時計回りに回り続けることで、個人の知識が組織の知識になる 設計書・ 判断の記録 ペア作業・ レビュー
図4 野中郁次郎・竹内弘高のSECIモデル(1995年)。コードから読み取れない「なぜ」を言葉にする作業は、右上の表出化にあたる。

渡し方の順番については、日本でよく知られた言葉がある。山本五十六の「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ」。上杉鷹山の言葉の影響を受けたとされる。手本・説明・実践・承認という順番は、相手のスキルと意欲に合わせて教え方・支え方・任せ方を変える状況対応型リーダーシップ(Hersey & Blanchard)とも重なる。同じ人でも、仕事の種類によって適した渡し方は変わる。

行動経済学にはIKEA効果という言葉もある。人は自分で組み立てたものを、同じ既製品より高く評価する。決まった答えを渡すより、決める過程に加わってもらうほうが、その決定は大事にされる。

そして最も古い答えは、『老子』第十七章にある。最上の指導者は、下の者がその存在を知っているだけ。事が成ったとき、人々は「自分たちでやった」と言う。

この原則を一言で

やり方ではなく意図を渡し、頭の中の「なぜ」を言葉にして残す。

Chapter 06

変化は、
段階で広がる

ざっくり言うと——新しいやり方は、全員に同時には広がらない。最初の数人と、真似できる実例から、順番に広がる。

キャズム(溝) 革新者2.5% 初期採用者13.5% 前期多数派34% 後期多数派34% 遅れて採用する人16%
図5 ロジャーズの普及曲線(1962年)。区分は平均と標準偏差で切った理論上の比率。初期採用者と前期多数派の間には溝がある、とされる(ムーアの「キャズム」)。

多数派は、説明を聞いて動くのではなく、身近な人の実例を見てから動く。だから新しいやり方を広げたいときは、全員に説明するより、先に試す数人を支え、その実例を見せるほうが早い。コッターの変革の8段階(1996年)が「短期の成果を早く見せる」ことを重視するのも、同じ理由だろう。

AIの導入にもこれが当てはまる。約5,000人を調べたDORAの2025年の報告は、AIは組織の強みも弱みも増幅すると結論づけた。道具そのものより、使い方を共有する場と仕組みが成果を決める。

もう一つ、状況によって決め方を変える、という考え方がある。スノーデンのカネヴィン・フレームワークだ。

領域 状況 決め方
明白因果がはっきりしていて、誰が見ても答えが同じ型どおりにやる
煩雑因果はあるが、専門家の分析が要る詳しい人が分析して決める
複雑やってみるまで因果が分からない小さく試し、結果を見て決める
混沌因果を考える余裕がないまず動いて止血し、それから考える

表2 カネヴィン・フレームワークの4つの領域。人や組織の変化は、たいてい「複雑」に属する。

この原則を一言で

全員を一度に変えようとせず、最初の数人と、真似できる実例をつくる。

Chapter 07

信頼は、
計算できる

ざっくり言うと——ここまでの原則は、どれも信頼の上でしか働かない。そして信頼は、才能より、小さな行動の積み重ねで決まる。

T = C + R + I S

信頼 =(信用 + 確実さ + 親密さ)÷ 自分本位さ

マイスターらが『The Trusted Advisor』(2000年)で示した信頼の方程式。要点は分母にある。どれだけ有能で、約束を守り、親しくても、自分の評価や都合を優先しているように見えると、信頼は小さくなる。分子を増やすより、分母を下げるほうが効く。

要素 意味 日々の行動にすると
C 信用言っていることが正しいと思えるか知らないことは「知らない」と言う。事実だけを言い切る
R 確実さ言ったことをやるか「明日返します」のような小さな約束を守る。守れないときは先に言う
I 親密さ安心して本音を話せるか聞いた個人の事情を、本人の許可なく他で話さない
S 自分本位さ自分のための話をしていないか自分の正しさより、相手の課題に注意を向ける
自分が知っている 自分は知らない 他人が知っている 他人は知らない ここを広げる ← 意見を求めて縮める ↑ 自分から開示して縮める 誰も知らない 開放 盲点 秘密 未知
図6 ジョハリの窓(Luft & Ingham, 1955)。自分から開示すると「秘密」が縮み、意見を求めると「盲点」が縮む。どちらも開放の窓を広げる。

関係が深まる順番についても研究がある。社会的浸透理論(Altman & Taylor, 1973)では、人は相手の開示の深さに合わせて開示を返し、関係は浅い話から深い話へ少しずつ進む。いきなり核心を聞くより、自分の話を一段だけ深くしてから聞くほうが、相手も話しやすい。

会話の終わり方も効く。カーネマンらのピーク・エンドの法則によれば、人は経験を、一番感情が動いた瞬間と、終わり方でおおむね判断する。面談や打ち合わせは、次の一歩か感謝で終えるほうが記憶に残る。

Googleは評価の高いマネージャーと低いマネージャーを比べ(Project Oxygen)、良いマネージャーの行動を8つにまとめた。1番目は「良いコーチである」、2番目は「任せて、細かく管理しない」だった。技術力は8番目に置かれている。

この原則を一言で

才能より、小さな約束を守り続けることで信頼をつくる。

Chapter 08

原因自分論で、
できることを洗い出す

ざっくり言うと——「原因は自分にある」と考えるのは、すべてを自分のせいにすることではない。自分で選べることと、働きかけられることに力を集めることだ。

関心の輪 影響の輪 自分の行動 完全に選べる 関心の輪(気になるが、動かせない) 会社の方針、人事異動、景気 → 受け止めて、反応の仕方だけを選ぶ 影響の輪(働きかけられる) メンバーの状態、チームの進め方、上長の判断 → 材料と提案を出す。決めるのは相手 自分の行動(完全に選べる) 聞き方、記録、約束の守り方、自分の余力 → ここに力を集めると、影響の輪が広がる
図7 コヴィー『7つの習慣』第1の習慣の「関心の輪」と「影響の輪」に、内側の「自分の行動」を足したもの。

ただし、原因自分論には落とし穴がある。第1章の B = f(P, E) のとおり、行動は環境にも左右される。全部を自分で抱え込めば続かない。しかもGallupによれば、世界のマネージャー自身の熱意は2022年の31%から2025年の22%まで下がっている。同じ期間、管理職でない人は20%から19%で、ほぼ横ばいだ。自分の余力を守ることも、チームのための打ち手に入る。

そのうえで、ここまでの7つの原則を「自分に何ができるか」に読み替えると、次のようになる。

01 — 自分自身

すべての打ち手の土台。信頼の式の分母を下げ、分子を上げる。

  • 事実と解釈を分けて話す。事実は言い切り、解釈は「〜と見ている」と添える第7章 信用
  • 小さな約束を記録して守る。守れないときは先に言う第7章 確実さ
  • 自分の失敗や分からないことを、先に口にする第3章・第7章
  • 自分の余力を、仕事の要求と資源で週に一度点検する第2章 JD-R
  • 自分へのフィードバックを求める(「やめてほしいことは?」)第7章 ジョハリ

02 — メンバー一人ひとり

1から0への変化を防ぐ主戦場。期待理論の3つの掛け算のどれも0にしない。

  • 面談の最初の問いを決めておく(「最近いちばん時間を取られていることは?」)第4章
  • 答えに納得したら、もう一問だけ聞く(「どうやって決めた?」)第7章 社会的浸透
  • 意欲が落ちたら、できそうか・報われそうか・欲しいかのどれが0かを聞き分ける第2章 期待理論
  • 依頼には「目的・制約・判断の基準」を書き、やり方は任せる第5章 任務戦術
  • フィードバックは仕事の中身と次の一歩に向け、人柄は評価しない第4章 Kluger & DeNisi
  • 加わって半年前後の人に、次の学びと挑戦を用意する第2章 ハネムーン効果
  • 面談は、次の一歩か感謝で終える第7章 ピーク・エンド

03 — チーム

人ではなく場を整える。悪い知らせが早く届き、仕事が詰まらない状態をつくる。

  • 悪い知らせや障害を最初に持ってきた人に、まず礼を言う第3章 ウェストラム
  • ふりかえりの主語を「誰が」ではなく「どの工程で」にする第1章
  • 並行で進める仕事の数に上限を置き、一番細い工程だけに手を打つ第4章 リトル・制約理論
  • コードから読み取れない「なぜ」を文書に残す時間を取る第5章 SECI
  • 新しいやり方は、先に試す数人を支え、その実例を見せる第6章 普及曲線

04 — 上長・ほかのチーム

影響の輪の外側。決めるのは相手なので、判断しやすい材料と提案を渡す。

  • 報告は「事実 → 解釈 → 打ち手 → お願い」の4段で出す第4章・第7章
  • 開発の数字を、相手の言葉に直して伝える(「要望から届くまでの日数」)第4章
  • 遅れたら人を足す前に、範囲を減らせないかを先に相談する第4章 ブルックス
  • 動かせない決定は受け止めたうえで、チームへの説明を引き受ける図7 関心の輪

この章を一言で

力を内側の2つの輪に集める。自分の余力も、その中に入れておく。

Chapter 09

よく聞くが、
使わないほうがいい話

ざっくり言うと——組織やコミュニケーションの話でよく引かれるのに、根拠が弱いか、誤用されているものがある。代わりに使える知見を並べておく。

よく聞く話 実際のところ 代わりに使う
2:6:2の法則統計の裏付けがない。働きアリの研究の一般化として広まったものGallupの日本の 8 : 71 : 21
メラビアンの法則
(言葉7%・声38%・表情55%)
感情や態度を伝える場面で、言葉と表情が食い違った場合の実験。会話一般で言葉が7%しか伝わらない、という意味ではない言葉と態度をそろえる
ポジティブ3:ネガティブ1元論文の数理モデルの部分は、批判を受けて掲載誌が正式に撤回したフィードバックは仕事に向ける
マズローのピラミッド有名なピラミッドの図は、マズロー本人が描いたものではない自己決定理論の3つの欲求
学習スタイル
(視覚型・聴覚型など)
好みの違いはあるが、スタイルに合わせて教えると効果が上がる、という証拠はほとんどない相手のスキルと意欲に合わせる

集めてみて一番意外だったのは、分野がこれだけ違うのに、言っていることがほとんど重なることだった。心理学の B = f(P, E) と、品質管理の「94%は仕組み」と、働かないアリの研究は、同じことを別の言葉で言っている。『老子』の第十七章と、Googleが調べた良いマネージャーの行動も、同じ方向を向いている。

式は、人を数値に置き換えるためのものではない。どこに手を打てるか、どこは打てないかを見分けるための地図として使う。掛け算のどれが0なのか。分母が大きくなっていないか。一番細い工程はどこか。そう問い直すだけで、次の一手はかなり絞れる。

Fact-check

統計は回答者数と方法が公開されている一次情報を、理論は提唱者の原典か、原典への参照がまとまった解説を選んだ:Gallup 日本の国別データ(2023〜2025年の3年移動平均)・入社直後のハネムーン期間(米国・2013年)・差の70%はマネージャー・役割別の熱意の推移/Stack Overflow Developer Survey 2025(満足の要因の順位)/DORA 2025・DORAの指標と注意点・生成的な組織文化(ウェストラム)/Google re:Work Project Aristotle(180チーム、関係が見られなかった要因の一覧を含む)・Project Oxygen の8つの行動はQuartzの記事の転載/Hasegawa ら 2016(働かないアリ)/Gneezy & Rustichini「A Fine is a Price」/Herzberg「One More Time」(HBR)/Kluger & DeNisi 1996(要旨)/信頼の方程式(Trusted Advisor)/FranklinCovey 第1の習慣/Wikipedia の各項目:Lewin's equation・基本的な帰属の誤り・期待理論・公平理論・自己決定理論・ハネムーン・ハングオーバー効果・JD-Rモデル・燃え尽き(マスラックの6要因)・心理的安全性・リトルの法則・アムダールの法則・グッドハートの法則・キャンベルの法則・任務戦術・SECIモデル・状況対応型リーダーシップ・IKEA効果・山本五十六(統率の項)・イノベーションの普及・カネヴィン・フレームワーク・ジョハリの窓・社会的浸透理論・ピーク・エンドの法則・メラビアン・臨界陽性比・マズロー・学習スタイル/書籍:デミング『危機からの脱出』、ゴールドラット『ザ・ゴール』、ブルックス『人月の神話』、コッター『企業変革力』、『論語』子路篇、『老子』第十七章。8つの原則への束ね方と、各知見の読み替えは筆者の整理であり、研究そのものの主張ではない。